創業して「経営理念」を考えるとき、社是、社訓、ビジョン、ミッション、バリュー、スピリットなど類似した言葉が沢山存在することで混乱する方も多いのではないだろうか。
経営理念等を考えようとしている方に向けて、これらの言葉の定義・違いを解説すると同時に、企業の設定事例を挙げて具体的に解説をしていきたいと思う。
経営理念、ビジョン、ミッション等の言葉の定義・目的とは?
人によって解釈の違いもあるが、言葉の定義をまとめると概ね以下の図の通りになる。
経営理念を筆頭に、ビジョン、ミッション(社是)、バリュー、スピリット(社訓)まで5段階の言葉が存在しているが、実際の企業の設定状況を調査すると5段階全てを設定している企業は稀で、多くの企業は自社にとって必要なものだけをピックアップして設定しているのが現状だ。
まずは、それぞれの言葉の定義と目的を説明する。
経営理念
経営をする上で常に大切にしている指針であり、「企業の存在意義」と言われる言葉。
会社の根幹を表現するものであり、最も設定している企業が多いのも経営理念である。
【目的】
「何のためにこの会社で働いているのか?(存在意義)」を明示し「社員全員の目線」を揃えること。
ビジョン
企業活動を通して会社が目指している未来が何か?を表す言葉。
「企業活動を通して世の中をどう変えていくか?」をビジョンとしている企業もあれば「企業活動を通して企業がどう変わっていくか?」を示している企業もある。
【目的】
「どのような世の中(会社)を作り上げるために働いているのか?(目指す未来)」を明示し「会社の目指す方向性」を揃えること。
ミッション(社是)
社会、顧客、株主のために果たすべき使命。(「社是」と表現している会社もある)
「ビジョン」は目指す未来を大きく表現する(曖昧な表現になっている)ことが多いため、より具体的な使命としてまとめた言葉がミッションになっている。
【目的】ビジョンと同様に「会社の目指す方向性」を揃えること。
バリュー
商品・サービスの提供にあたって顧客への約束(提供する価値)を明示する言葉。
「ミッション」を実現するために必要な社員の行動(=「顧客に約束する価値」)を具現化し、わかりやすく表現しているケースが多い。
※スピリットと同義で使っているケースも多くみられる。
【目的】ミッション同様に「会社が目指す方向性」を揃えること。
スピリット(社訓)
仕事をする上で気を付けるべき行動指針。(スピリットは「社訓」と表現している会社もある)。
バリューをさらに具体的にした行動指針として表現しているケースが多い。
【目的】バリュ同様に「会社が目指す方向性」を揃えること。
上記の通り、上位階層にある「経営理念」「ビジョン」の理解を深めるために下位階層のミッション(社是)、バリュー、スピリット(社訓)が存在しており、すべての言葉の目的は同じで、「社員の目線」「目指す方向性」を揃えることとなっていることがわかる。
大手企業・成長企業が設定している経営理念の事例
「社員の目線」「目指す方向性」が揃っている会社が成長するのは間違いないが、実際、経営理念~スピリットの設定状況はどうなっているのだろうか。
安定的な成長を続ける老舗企業・急成長しているネット企業を5社ピックアップし、設定状況を調査したので紹介したい。
すべての項目を設定しているのはリクルートのみ。上記5社以外にも多くの企業の設定状況を調査したが、全てを個別に設定している企業はほぼ存在しなかった。
要するに、経営理念~スピリットをどのように設定するかに正解・不正解はなく、「社員の目線」「目指す方向性」を揃えることができれば良いと考えている企業が多いようだ。
私が創業したアイデアログの事例
私が創業したアイデアログでは「経営理念・ビジョン」として「仲間に愛される会社をつくる」という言葉を作り、「4つの約束」として以下の事業しかやらないことを決めた。
- 正直な事業
- 感謝・感動が生まれる事業
- 利益を出し続ける事業(ブームではない事業)
- 仲間が成長できる事業
※ミッション、バリュー、スピリットは現時点では設定していない
この「経営理念・ビジョン」が私の経営判断で大きく役に立っているのは間違いないが、この言葉の本質が社員に浸透しているかどうかは正直わからない。いや、むしろ浸透させようと思っていないと言ったほうが正しいのかもしれない。
置かれた立場・ポジションによって見える景色は違うし、「経営理念やビジョン」を社員に浸透させるのは不可能だと考えている。だからこそ、私は
①「経営理念」「ビジョン」⇒経営層のために設定するもの
②「ミッション」「バリュー」「スピリット」⇒管理職・一般社員のために設置するもの
と考えたほうが良いのではないかと思っている。
実際にソフトバンクで6年半、リクルートで5年半がむしゃらに働いていた私も、恥ずかしながら「経営理念」や「ビジョン」を意識して仕事をしたことは一度もなかった。唯一心に留めていたのは「自ら機会をつくりだし、機会によって自らを変えよ」というリクルートで定められた昔のスピリット(社訓)だけだ。おそらくリクルートの他の社員も同じだろう。
他の企業が苦労する中、リクルートのスピリット(社訓)がこれほど浸透したのは「わかりやすさ」と「共感性」があったからに他ならない。
経営層・幹部層に向けて経営理念・ビジョンを示すと同時に、管理職・一般社員にはミッション、バリュー、スピリットを通して「わかりやすさ」と「共感性」のある言葉を明示すること。
リクルートの事例からも、そのことが理解していただけるのではないだろうか。