20代前半の頃、私は3つのプロジェクトを掛け持ちしながら、1日のスケジュールを組み立てる日々だった。
当時の労働時間は1日12時間~15時間。複数のプロジェクトに時間を割り振りながら、忙しくなると残業・休日出勤をしてリカバリーをする日々だ。
「1つのプロジェクトに集中させてくれれば、もっと成果を出せるのに・・・・」
常に複数の仕事の進捗を頭に入れながら過ごす日々はストレスが多く、仕事が嫌で仕方なかった。
複数の仕事をこなすストレス
まだ若手で世間知らずだった私は、上司に対してこんなことを言ったことがある。
私「僕は1つのことに対する集中力が高いんです。1つの仕事に集中させてくれれば必ず成果が出します。Aプロジェクトに集中させてくれませんか?」
上司は一瞬、不審な顔をしたが笑ってこう答えてくれた。
上司「そんなものは誰だってそうだよ。1つのことしかやらなくて良ければ誰だって成果が出せる。」
私「そうでしょうか?Aプロジェクトだって、私だからできたことも多いと思います。」
上司「ハッキリ言うと、Aプロジェクトは誰がやっても上手くいくプロジェクトだよ。メンバーも揃っているし、課題解決の難易度が低い。あれをやり遂げたところで評価できない」
続けて上司はこう言った。
「俺は他のBプロジェクトとCプロジェクトこそ、プロジェクトリーダーの真価が問われる難しい仕事だと思う。お前は、その難しい仕事から逃げたいだけじゃないの?」
逃げる気持ちは一切ないつもりだったが、確かに「上手くいっているAプロジェクトに集中する」という言い訳を使ってBプロジェクト、Cプロジェクトから逃げたいだけだったのかもしれない。上司の言葉に納得してしまった私は何も言い返すことができなかった。
「お前には将来もっと大きな仕事を任せたいと思っている。3つのプロジェクトをこなせないようでは大きなプロジェクトリーダーにはなれないよ。大きなプロジェクトは、BプロジェクトやCプロジェクトのようなプロジェクトが何十個も詰まっているから。」
将来、大きなプロジェクトのリーダーになりたい。
出世意欲が強かった私は、この言葉に奮起し、何とか3つのプロジェクトをやり遂げることができた。そして、入社6年目を迎える頃には、億単位のプロジェクトを任せてもらえるようになり、5つ以上のプロジェクトを常時掛け持ちしていた。
「せめて掛け持ちするプロジェクトは3つくらいにして欲しいよ・・・」
当時の私は同僚に愚痴を言う反面、大量の仕事を同時に推進できるようになったことに成長も感じていた。
マルチタスク力は鍛えられる
例えば、マラソンは正しいフォーム、正しい呼吸等の理論を学び、理論に従って最大限の負荷をかけることで、タイムはどんどん伸びる。仕事も同じように、正しい理論を学び、理論に従って負荷をかけることで、推進できる仕事量がどんどん増えていく。
人は、負荷を与える環境に身を置けば置くほど、それを克服していくことができるのは間違いないだろう。
ビジネス界では出世すればするほど「マルチタスク力」が求められる。
出世して課長になれば、自分の仕事だけでなく、部下の数だけ仕事の状況を気にかけなければいけないし、部長になれば配下の課の数だけ仕事の状況を気にかけなければいけない。事業部長、役員、社長と上に行けば行くほど、マルチタスク力が求められるのだ。
以前以下の記事でも紹介したが、出世する人材は
①圧倒的な当事者意識
②圧倒的な論理的思考
③圧倒的な忍耐力
の3つを持っている。
「出世できる人」と「出世できない人」の違いとは何だろうか?私が働いていたソフトバンクもリクルートも一流大学の出身者が多いが、入社して3年ほど経つと能力に差が広がり、同期を突き放して頭角を現す人が出てくる。「最年少部長」、「最年少[…]
上記の「③圧倒的な忍耐力」を持ち、苦しい環境から逃げないことで「マルチタスク力」はどんどん磨かれていくだろう。
よく、この話をすると「マルチタスクよりも選択と集中が必要だ!」と言う人がいる。
しかし、そもそも1つの仕事しか推進できない人が、1つの仕事に集中してもパフォーマンスは知れている。複数の仕事を同時にこなせるマルチタスク力を持つ人材が「選択と集中」をもって1つの仕事に集中することで、とんでもないパフォーマンスを発揮するのだと思う。
今苦しい環境で働いている方も、「将来の成長」を目指して耐えることが必要なのかもしれない。